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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter96 『求めるもの』 96-30


「ん?」

「スイカでも、お切りしましょうか?」

(黒い燕尾服に身を包み。 白手袋の手に、菖蒲は。 みずみずしそうな、
大きな、丸いスイカを抱えて。 現れた。)

「・・。 くすくすっ。」

「ずいぶん、ここでの暮らしに馴染んでるな。」

「え? そうですか?」

「夏樹様こそ。 夏休みの課題に追われたり。 明日から、友達と遊ぶんですよね?」

「夏休みを満喫されてらっしゃる。」

(夏樹は、窓ガラスにもたれながら。 両腕を組み。 しぶい顔をして笑った。)

「・・課題は余計だよ。 数学ほんと苦手。」

「くすくすくすっ。 ソラ様が驚かれていましたね。 夏樹様は、何でも得意だろうって

思っていたと。」

「そんなわけないだろう。 ほんと言うと、勉強はしたくない。」

(キッチンへ向かおうとする菖蒲の後を追いながら。 夏樹はこっそり伝えるように、
白い両手で、口元を隠した。)

「・・夏樹様・・。 千波様に叱られますよ?」

「そうだな。」

(夏樹は、笑いながら。 カウンターに両肘をついて。 菖蒲を見つめ。
キッチンの中に、道具を取ろうと。 高い背を屈めて



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