HOMENovel
Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】
Chapter96 『求めるもの』 96-36
「あなたのことが。 心配なんですよ・・!」
(だが、深い紺色の瞳は。 ただ、嬉しそうに揺れた。)
「大丈夫だよ。 菖蒲。」
(夏樹は、微笑みながら。 自分の手に触れている、菖蒲の手を外した。)
コンコンッ
キイッ
(ちょうどその時、ドアをノックする音がし。 隣の棟からやって来た、
紫苑の父。 誠司が、ドアを開いた。)
「夏樹君。 こんばんは。 ちょっといいかな。」
「・・? はい。」
(瞬き、誠司について行く後ろ姿を見送りながら。 菖蒲は、夏樹に触れた、
自身の手を見つめた。)
「夏樹様・・。」
(白手袋をしていない素手で、夏樹に触れたのは、初めてだった。
その手に残る、氷の様な。 冷たい感覚は、とても普通の人のものとは思えず。
指先に残る冷たさが。 菖蒲を不安にさせた。)
(恐ろしささえ覚える、その手に残る感覚を。 忘れぬように。
菖蒲は、自身の手を握りしめた。)
キイッ
パタンッ・・
『 次ページへ 』 『 前ページへ 』