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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter96 『求めるもの』 96-37


***

「石垣殿が。 特別病棟へ、見舞いに入られたそうです。」

(千波の去った、聖の自室の中で。 橘は、静かに、聖に報告した。)

カチャッ・・カタン

(机上から落下した、小物を。 金の指輪の光る手が、拾い上げ。 机の上に戻した。)

「・・・。 くっ、あまねく人々のためか。」

(顔をあげた、金色の瞳が。 鋭く光り、橘は。 緊張感にわずかに、
白い眉を動かした。)

「たった一人のためだろうが。」

「・・青葉の容体はどうだ?」

(輝く金色の瞳を覆う、眩い銀髪は。 乱れ。 仄暗い室内のせいか、おぼろに灯る
ランプの明りに。 その頬は、少し痩せたように見えた。)

「けして、良い状態ではないと。 伺っておりますが。」

(橘は、穏やかに告げたが。 英国老紳士を思わせる、整った燕尾服と。 丸眼鏡の奥の
灰色の瞳は。 冷やりとした空気をまとい。 白い口髭の口元は。 聖を案じながら。
彩からの報告を口にした。)

「研究所の彩殿の報告によりますと。 失われた欠片の一つが。」

「“闇”の痕跡がすべて消え。 青葉様の体内に、戻されているようだとのこと。」

「これが本当であれば、夏樹様について一縷の望みと。 なりましょう。」

(だが、聖の黄金色に煌めく瞳は。 僅かに細め、鋭い笑みを浮かべた。)

「たった一つの小さな欠片では、長くは持つまい。 石垣が躍起になるのも分かる。」



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