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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter96 『求めるもの』 96-46


(それでも、凍りついたように美しい女性の顔から。 フェルゼンは、在りし日の
声を聞いた気がした。)

「リザ・・。」

(フェルゼンの中で、今でもその女性は。 笑っていた。)

「俺の元へ・・。」

(フェルゼンは、見開かれた。 黒い瞳を。 丸い、ガラスの寝台の中に眠る。
まるで生きたままの姿に。 美しい黒いドレスに身を包むその女性を。
愛しむ様に、抱きしめた。)

「王族の手によって、“時の欠片”に閉じ込められた、お前の“闇の魔力”。」

「お前の“呪い”を、この俺が・・、解放する・・。」

「くっくっくっくっ。」

(目を細め。 歪む、フェルゼンの赤い瞳に。 美しいリザの姿が蘇った。)

(フェルゼンは笑ったが、小さな黒猫は。 小さく耳を揺らし、四肢を震わせた。)

ピチャン・・ ピチャン・・

(黒い水滴が落ちる先で。 消えかけた女性の命は。 尽きようとしていた。
にもかかわらず。 闇の魔力は、それを許さず。
また、留めようとするフェルゼンの力が。 黒いドレスに身を包む女性を。
丸いガラスの寝台から、ガラスの床へ流れる、
薄紫の美しいソバージュの髪を。 ビー玉のように見開かれた、黒い瞳と、長い睫毛を。
魂の抜けたその身体を。 生きたままに留めていた。)

「・・。 裏切りと、欲望。 残虐な苦しみに満ちたこの世界。」

(黒い雫が、降り注ぐ。 リザの、美しく。 黒い紅を差したその唇に。
フェルゼンは、口づけた。)



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