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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter96 『求めるもの』 96-62


(男は、屋上の手すりにもたれ。 煙草をくゆらせながら、無理に吸い込んだと見え。
むせ。 背中の痛みに、堪える表情をし。 そんな自分に笑った。)

「ひっひっひっ・・。 くっそ。 痛え〜・・。」

「あの餓鬼・・。 (ゲホッ・・ゲホッ・・)」

バササッ・・

(男の肩にかけた上着が、強い風になびき。 くわえようとした煙草を持つ手が止まった。
男の目はカッと見開き。 近づいた、何者かの気配に。 身体を硬直させると、
信じられないものを見るように、あぜんと口を開いた。)

「あ・・。 おめー・・。 どうやってここに。」

(驚き、手元から落ちかけた煙草を。 白い指先が、摘み上げた。)

「ふっ、院内禁煙じゃないのか?」

(どうやってその場に来たのか、隣に。 すぐそばに、夏樹が立っていた。)

「傷。 辛そうだな。」

(深い紺色の瞳がゆがみ。 眉根を寄せた。 たちまち狐次郎の目は、活気に満ち。
まるで、全快したかのように、ニッと引きつる笑顔を浮かべると。 声を上げて笑った。)

「ひっひっひっ。 おめー、本物か?」

「返せや。 ひっひっ。 お互い、死に損なったなー? え?」

(狐次郎は、夏樹の手から、煙草を奪うと。 上機嫌で、白い頬に向かい。
わざと煙を吐いた。)

「ふぅ〜・・。 俺たちに待ってるのは、生き地獄だぜ。」

「・・。 どうかな?」



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