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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-105


***

「芝草が、顔についてますよ。」

(菖蒲は、微笑み。 右手の白手袋を外すと。)

(そっと、静乃の頬についた、小さな芝草を親指で払った。)

『・・・っ。』

「え・・?」

(ピンク色に染まる静乃の頬は、可愛らしく。 見開いた大きな瞳から、
ふいに涙がこぼれ落ちたので。 菖蒲は動揺した。)

「・・っ、・・・っ。」

(四角い黒縁眼鏡の奥で、瞬き。 声に出せず、涙する静乃の肩をさすった。)

「・・静乃さん・・?」

バッ・・

(思いもしなかった菖蒲は、静乃の両腕が、強く自分を抱きしめるのに、
驚き。 身を任せた。)

「(ひっく・・)・・っ。」

「私は、苦しんだりしないわ。

菖蒲くん。」

『!』

(涙をこらえた静乃は、真っ直ぐに菖蒲を見上げると。 花柄のヒールの
つま先で、思い切り背伸びした。)



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