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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-110


「彼女が僕から消えてしまう前に・・。」

「僕は、追いかけなければ、ならない。」

(舞い戻った聖は、夜光の中に光る。 白亜の洋館を見上げた。)

***

「もっと早く、気づくべきだった・・。」

(自室の黒いソファーに身を沈め、晃は。 遠く、去りゆく人を想った。)

「誰よりも“欠片”を求めていながら。 あいつは“闇”と向き合うことを避けていた。」

「向き合えば。 自分の中に眠る“闇”を呼び覚ますと知っているから。」

(晃の、黒い瞳は。 静かに、前を見た。)

「昔からの悪い癖で。 さぼっている。」

「ただそれだけであれば良い。」

(互いに、分かり合うがゆえに。 晃には、今、聖の苦しみが、痛いほど分かった。)

「夏樹の中に。」

「眠る粒樹とともに。」

「あいつは、自分の中の苦しみを閉じ込めた。」

「もろくなる、街の結界のように。」

「耐え切れず。 開放すべき時を待っている。」

(静かに話を聞き、控えていた時雨は。 晃の側に寄った。)



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