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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-14


(彩は、白衣の両腕を組み、目を閉じた。)

(このところ、研究所に詰め切りだった、着古した白衣は。 しわが寄り、
青白い電灯の下で、くすんで見えた。)

「ふ・・。」

「蛇の道は・・蛇・・。」

(自身を嘲笑し、紅い唇が、笑った。)

(横に高く結わえた、ポニーテールの鮮やかな、ピンク色のソバージュの髪先は。
ほつれ。 乱れて、白衣の肩に落ちた。)

「不思議ね、あなたの顔が浮かぶわ・・、剛。 あなたの言う通り。」

「人が生き。 死ぬことは、自然なこと。」

(巨大な院内の廊下、頭上高く照らす灯りは。 青白く、彩の顔を浮かび上がらせ。
夏の夜の熱は、ここへは届かず。 静まり返った空気は、痛いほどに張り詰め。)

(不思議な緊張感と冷たさを、感じさせた。)

「けれど。」

「・・、それに立ち向かうのが。 私の仕事よ。」

(疲れて、表情を無くす頬は、血の気を失せて見えたが。
揺るがぬ決意が、彩を美しく見せていた。)

『いつからか、声が聞こえるようになった・・。』

『私が、決意するのを待っている・・。』

(ゆっくりと、長い睫毛が動き。 わずかに目を開けた。)



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