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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-36


(夏樹は目を開け、ふと。 大きな廊下に広がる。 窓ガラスの向こう、
静かな夜空と。 夜の海を見た。)

ザザザザザザザーッ

(潮の流れに乗り、海風が。 わずかに開いた窓の隙間から。 鋭く、夏樹の頬を打つ。)

「夏樹さーん、みんなが温泉に行こうって〜。 夏樹さん?」

チリリッ

「・・・っ。」

(風は、誰かの悲痛な呼び声のように。 深い紺色の髪と、胸元の、細い鎖を揺らした。)

「どうか、なさいましたか? 夏樹様。」

(気になり、菖蒲が。 夏樹の側に来た。)

「・・いや。」

(夏樹は、静かに。 海を見つめていた。)

***

『“欠片”を得るためと、自分に言い聞かせて、人々が“闇化”に苦しむのを、

見逃して来た。』

コォォォォーッ・・

(目を閉じる彩は、自らの行いを悔いるかのように。 自身と向き合い。
心に念じた。)

(天を仰ぎ、夜光を浴びる。 彩の胸元に、銀の十字架が光る様子は神々しかった。)



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