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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-49


「愛しい者を。 僕に差し出すのは、苦しかろう?」

(目を開けた。 金色の瞳は。 鋭く、強く。 恐ろしい覇気を持って、
橘を睨んだ。)

「・・聖様・・。」

(今、目を逸らせば。 あるいは、望まぬそぶりを見せれば。
命は無い。 橘は、そう感じた。 と同時に、奥底に眠る。 この者への忠誠心の深さを
実感し。 それを許す、自らの心を恐ろしく思った。)

「いいえ。」

「私が気にかかるのは。」

「別のことでございます。」

(橘は、一呼吸置き。 聖に助言した。)

「晃様のことでございます。」

「聖様にとって、FOTにとって。 無くてはならないお方。」

「今一度。 お考えを改めますよう。」

「・・お願い申し上げます。」

(白髪の、美しく整う、老執事は。 深々と頭を下げ、白手袋の手を
胸にあてた。)

「・・・くっ。」

「・・くっくっくっ。」

「だからだよ、橘。」



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