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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-65


『もっと、頼ってほしい。』

『いつも助けられ。 私は、彼女の、力になれているのでしょうか・・?』

(菖蒲は、白手袋の手で、顔を覆った。)

「・・駄目ですね。 私は。 私に出来ることをすれば良いのです。」

(微笑んだ菖蒲の。 視線の先に、美しい月夜があった。)

***

(静乃の頭上高く、浮かぶ月は。 薄雲に覆われ、姿を隠していた。)

カッ・・

(一歩踏み出し、見上げる先に。 円形にそびえる、巨大な建物。 上部に刻まれる、
National Biotechnology Laboratoryの文字が。 国家生命科学研究所の
本棟であることを示していた。)

(一息つき。 再びドアに向かった。)

「勇気をもらったわ。 菖蒲くん・・。」

(微笑み、一歩踏み出した。)

ピシュンッ

(ドアの向こうは、空気さえ違い。 外気の熱を打ち消す、ぴりりとするほど、
周囲の機械で冷やされた冷気が。 開いたドアから流れ出し。 頬を打った。)

「・・ふぅ。」

(冷やしすぎたクーラーの効いた室内に入った感覚に、静乃は身震いした。)



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