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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-78


ピッ カタンッ ゴトトッ

(熱気であふれる浴場を出ると、ホテルの廊下は、心地よく涼しい。
冷たい空気が流れた。)

(販売機で、小さな飲み物を買うと。 手にした冷たさに、微笑んだ。)

「なにか、冷たいもの。」

「あ。 いた。」

(探しているその人は、すぐそばにいた。)

(空調のものではない、ひやりとした気配が、流れ出す。
冷たい窓辺に、背をもたれ。 少しうつむき加減で、深い紺色の髪が、
真っ白な頬を覆っていた。)

(浴衣から覗く、すらりとした白い足が。 気だるそうに投げ出され。
廊下の片隅の、ベンチで休む様子さえ。 絵になるようだと紫苑は思った。)

「くすっ。 大丈夫、夏樹くん?」

「これ。 よかったら。」

(紫苑は、昼間のお礼の気持ちで、夏樹に微笑んだ。)

「・・、ごめん。 ありがと。」

「! 冷たい・・っ。」

「?」

「・・湯あたりしたのかと思ったんだけど・・?///」

(水滴がしたたる、冷たい缶ジュースと同じくらい。 わずかに触れた夏樹の手は、
冷たかった。)



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