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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-80


(夏樹は、ほんの一瞬。 触れるほど、紫苑と近づいた距離に。
洗い立ての髪から香る、美しい香りに。 何より、慌てて着た浴衣から、
汗が引く間がないほど。 自分を気遣い、すぐに駆けつけてくれる紫苑の優しさに。
心動かされた。)

『紫苑さん。』

「・・夏樹様。 こちらにおいででしたか。 どうかなさいましたか?」

(その時、後ろから、姿を現した菖蒲に。 夏樹は、思考を現実に
引き戻された気がした。)

「・・。 菖蒲こそ、何かあったか?」

「分かりやすいな。 顔に出てるよ。」

(穏やかに、深い紺色の瞳が微笑み。 煌めく輝きに、見つめられ、はっとした。)

「・・、いいえ。 何も。」

(夏樹は、笑った。)

「くすくすっ。」

ピタッ・・

「!/// 冷たっ。」

(夏樹は、しらを切ろうとする菖蒲の頬に。 冷たい缶ジュースを押しあてた。)

「嘘が下手だな。」

「ソラがアイス買ってくれるって。 元気出して。」

(励まさなければならないと思っている夏樹に、菖蒲は励まされた。)

『・・夏樹様・・。』



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