HOMENovel

Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-89


「いいえ。 医者として、目の前にいる一人を救うことが。

あなたの願いなのに。」

「もっと多くの人を救うために、

あなたは研究者の道を選んだのよ。」

「だから、あなたの患者は。

研究対象となってしまった・・。」

(彩の苦しみに、静乃は気づいていた。 目をそらしてきた現実を突きつける。
心をえぐる言葉に彩は身もだえた。)

「やめてっ!」

(けれど、静乃はやめなかった。)

「それが、どんなにあなたを苦しめたか・・。」

「あなたは、目の前にいる一人を、救うことを忘れたの。」

「夏樹くんが目指していることは。

あなたが最初に目指していたことと同じ。」

「目の前の人を救うことよ。 彼はずっと、そうして来た。」

「自分のことを捨てても、彼は、そうしようとしている。」

「そんな彼を、あなたが見捨てられるの?」

(静乃の言葉に、彩の心は痛んだ。)

***



『 次ページへ 』 『 前ページへ 』
このページのトップへ