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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-90


ピチャンッ・・ ザザーッ

(菖蒲は、誰もいない湯船に。 静かに浸かった。)

「・・はぁ。 どうしても、心から離れない。」

「こんなに穏やかな時なのに。 ・・・っ。」

(穏やかな水面を、黒い瞳が見つめた。 解かれた肩にかかる黒髪が。
艶やかに。 熱い滴を受け、水面に揺れる。)

(いつもなら、ほんのひと時、心の安らぐ時間のはずだった。)

(視力の良い菖蒲の目には、眼鏡をかけずとも、満天の星空が煌めいて見えた。)

パシャシャッ

(不穏な気配を振り払おうと、熱い湯で顔を洗ってみたが。 気持ちは晴れず、
両手で顔を覆ったまま。 菖蒲は、目を閉じた。)

ピコンッ・・

「・・はっ。」

(菖蒲は目を開けた。 遠くに置いた、通信機から。 呼び出し音が鳴っている。)

「・・緊急の連絡・・。 時雨さんから、どうして・・。 本部から、研究所へ・・?」

バシャシャッ・・

(急ぎ、湯から上がると。 燕尾服に袖を通した。 濡れた髪もいとわず、
素早く長い髪を一つにしばると、艶やかな燕尾服の肩に、滴がこぼれる。)

ピッ

(眼鏡をかけ、まだ濡れた手で、通信機に触れた。)



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