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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-95


トッ・・

(その場に、もう一人、人物が姿を現した。)

「これは、これは。」

「菖蒲さん。 主人と共に、FOTを去られたのでは、ありませんでしたかな?」

(老執事は、静かに。 丸眼鏡の奥で微笑んだが。 張り詰める緊張感を、その場に
もたらした。)

「・・お爺様・・。」

(菖蒲は思わず、その場で立ち止まり。 聖が現れるのではないかと、警戒した。)

「ほっほっ。」

「時雨さん。 感心しませんな。」

「Ability to Memorize」

「聖様が、たどれぬようにと書き換えた。 すべての空間通路を記憶に留め。」

「菖蒲さんをここへ通すとは。」

(半月形の眼鏡の奥で、時雨の鋭い瞳が、微笑んだ。)

「・・お褒めのお言葉。 恐悦至極に存じます。」

(橘の、小さな灰色の瞳は、強い波動を放ち。 いつもは穏やかな笑顔を浮かべる、
しわの頬に、冷たい跡を刻んだ。)

「くすくすっ。」

(時雨は、かまわず。 菖蒲に告げた。)



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