HOMENovel

Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter98 『境界』 98-96


「・・。 本部から続いている。 その扉からが、生命科学研究所へ最も近い。」

「剛様が向かう。 だが、お前でなければ。」

「静乃を引き止められまい。」

「もう、彩は助けられん。」

(時雨の言葉が。 重く、鋭く、菖蒲の心に刺さった。)

「・・時雨さん。」

「はい。」

(菖蒲は、うなずき。 真っ直ぐに扉に向かった。)

(振り返らず進む背中を、橘は見送った。 それ以上止めずに、
橘が菖蒲の自由を許したことに。 時雨は何かがひっかかった。)

「行かせるのですか?」

(時雨は橘を見た。 菖蒲を見つめる橘の目が。 一時うるんだように見えて。
ふと、息をのんだ。)

「今は。」

(丸眼鏡の奥で、灰色の瞳が揺れた。)

「私は、晃様をお守りします。」

(聖が、晃を裏切ろうとしていることは明白だった。 時雨は、鋭い瞳で橘を見た。)

「また、お目にかかれる日を。」

(願いを込め、時雨は深く。 橘に礼をした。)



『 次ページへ 』 『 前ページへ 』
このページのトップへ