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Novel 【* Fragment of Time * 時の欠片の道しるべ * 空と夏樹の物語】

Chapter99 『決意』 99-35


「どうして、僕だったんだろうか・・?」

「他に、生きるべき人はいた。」

「・・粒樹も。 母さんも・・。」

(夏樹は、目を閉じ。 記憶の断片を受け止めた。)

「僕は、誰かのために。」

「生きられているだろうか・・。」

(夏樹は、静かに。 明るみ始めた空を、見つめた。)

***

***

キイッ・・ カチャンッ・・

(仄暗く、ランプが灯る。 洋館の、一室。 アンティーク机の上に、
そっと。 美しいティーセットが置かれた。)

(まだ、薄い月が、窓の向こう。 レースのカーテン越しに見える。)

(ほのかなオレンジ色の明かりに、ティーカップから立ち昇る、温かな湯気と。
澄んだ香りに、聖はゆっくりと。 目を開けた。)

「・・これは。 聖様。 おはようございます。」

「そろそろ、お目覚めではないかと。 思いまして。」

(橘は、夜明け前でありながら、すでに整った装いで。 英国老紳士を思わせる艶やかな
燕尾服。 胸元の白いハンカチ。 丸眼鏡の奥の穏やかな灰色の瞳の微笑みは、
いつも通りの朝を迎えるように。 聖を現実の世界に、目覚めさせた。)



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